2015-05-25 23:14 | カテゴリ:本の紹介
最近こういう分を購入した…古本でだけど。

「妖たちの時代劇」


これを書いたのは、笹間良彦さんという方で、甲冑や武器研究の第一人者でいらした方。
すでに故人だが、この方が書かれた「日本甲冑武具辞典」は、甲冑愛好家や鑑定士を目指す人間、あるいは甲冑を扱う古物商にとっては必携必読の書といえる。
電話帳並みの厚さで製本は上等、それだけに非常に高価な本だが、今日まで何度も版を重ねたベストセラーだ。
僕はこの本を高校生の頃、1万円という大枚をはたいて購入し、読みふけった記憶がある。
ちなみに、こうした本の挿絵を描かれておられるのも、笹間氏ご本人というから驚きだ。
画才も文才も巧みでいらっしゃる、スゴい方であられた。

ただ笹間氏はとてもユニークな趣味をお持ちで、甲冑の研究だけに分野をとどめず、未確認動物、妖怪変化、武道、神道仏道、江戸時代の生活に関する時代考証etc、実に様々な分野に関する研究本を書かれていた。
僕もこの方の本をこれまで結構読ませてもらっていたのだが、今回入手した本も、そうした研究本のひとつだと思っていた。
「妖たちの時代劇」なんていうタイトルなので、多分時代劇に出てくる妖怪の研究本かなと思っていた。
岩見重太郎の狒々退治とか、俵藤太秀郷のムカデ退治、源頼光の酒天童子討伐など、昔ばなしにはヒーローと妖怪の対決はつきものだし、そういったものに範を取る時代劇映画なんかも昔たくさん作られている。
そうした映画やテレビ時代劇の研究本かエッセイ本だろうと思い込んでいたのだった。

トコロが購入して読み始めてみたら、なんか様子が変…これはどうなってるんだ?
実は短編小説集だったのだ(^^;)。

どうやら笹間氏は、趣味として30年間に渡り小説を密かに書き続けてきたらしい。
数年前逝去された後、その原稿が机の引き出しかなんかから大量に発見されたので、それをまとめて出版しました…というもののようだ。
しかも書かれていたのは時代小説、しかも怪奇譚というか、妖怪譚ばかり。
笹間氏はこれを100話書き貯めて、百物語として出版したかったようだ。
それは叶わず志半ばで物故されたわけだが、50話ほどは書き終えていたらしく、この本に収められた20話ほどの小説は、生前氏と付き合いの深かった編集者が、その中空選り抜いたものらしい。
時代考証かというのは、有り体に言えばテレビや映画の時代劇等に登場する有職故実や文化風俗に、関してここが違うあそこはおかしいと、間違いを指摘して手直しをさせるのが仕事なわけだが、誤解を恐れずに言うなら「重箱の隅をつつく」のが仕事の人が書いた小説って、どんなものなのだろう。
その辺りにいささか興味が湧いて出て読み進めてみた。

で、その感想なんだが…。

淡白すぎてつまらない、というのが本音。

いや、さすがに時代考証家なのでその辺りの描写はきっちりしている。
この小説は基本的に短篇集なので、これという時代が定まっていない。
平安時代から江戸時代まで幅広い時代の物語が納められている。
その時代時代の風俗とか、しきたりとか、政治制度とか、そういうものに関する説明描写はやたら詳細だw
さすが考証家の面目躍如だ。
まあ時々ポカもある。
山窩が出てくる話があるんだが、その中の山窩の描写はデタラメだ。
おそらく、山窩研究科として有名な三角寛の作品を参考にしているのだろうが、現在ではあの研究のすべてが三角の捏造ということは広く知られている。
それをそのまま書いてしまっている時点でアララとなってしまうわけだが、まあ笹間氏がこの短編を書かれた時期がわからない以上、その辺りはしかたのないところだろう。
それ以外はほぼ完璧と言ってもいいのではないかと思う。

…だけれども、文体も含めて物語展開はやたら淡白だ。
なんか、交渉説明の合間に話が淡々と進んでいく感じなのだ。
なんかラストでオチを描いた部分でも、まったく余韻がない。
「誰それはなにそれで死んだ」
とか書かれているだけなのだw
もうちょっと、こう…装飾文が入っていてもいいような気がするんだけどもw
いや、アイデアは練ってあるし、キャラクターの心理描写なんかもしっかりあるので、つまらないわけではない。
けれども、どうにもあっさりしすぎた印象なのだ。
デタラメはない代わりに、司馬遼太郎の理屈っぽいが手に汗握るドラマティックさも、池波正太郎の江戸前の粋や胸がすくようなカタルシスも、山本周五郎のホロリと来させるけれども暖かい人情も、ないのだ。
現代人が時代小説を好んで読むのはどうしてだろう。
それは、そこのその次代を生きていた人々の息吹とか感情とか生活感を感じたいと思うから、そして一握りのファンタジーを感じたいからではなかろうか。
そのいみで、この本に収められている小説は、時代小説として非常に微妙だといわねばならない。
工夫をこらした形容詞がなく、やたらさっぱり書かれているのもそれに影響しているのかもしれない。
妖怪というよりも、人間が妄念や激情によって妖怪化するという内容の話が多いのだが、その折角の妖怪も、淡白な形容詞の前ではなんか色の薄い透明人間みたいな印象しかない。
その辺りが非常に残念な気がした。

ただ何度も言うけれども、笹間氏は小説家ではなく、時代考証家で、しかもこの小説はあくまでも趣味として書かれていたものだ。
だから酷評するのは忍びないし、したところで的外れだし、気の毒な気はする。
まあ考証家の小説はこんなものなのだろうと思って読んでいれば、それなりに楽しめるのも確かな気がする。
決してつまらなくはないのですから。
その点を考慮すれば星3つくらいが妥当なのではないだろうか。

しかしそんなことを書いた一方で、「笹間百物語」の完成を見てみたかったという気もしないでもないのでした。
ちなみにこの小説の挿絵もご本人が描かれています。

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